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2014年4月1日火曜日

英国面:命尽きるまで核兵器を守る

核兵器というと、弾道ミサイルに載せた戦略核兵器を思い浮かべる方が多いと思いますが、
核兵器は何もミサイルだけに積むものでは有りません。

少なくとも、20世紀では。



世の中の核兵器は大きく分けて2つに分けられます
一つは「戦略核兵器」
ICBM、大陸間弾道ミサイルやSLBM 潜水艦発射弾道ミサイルに搭載されている核弾頭なんかは
全て戦略核兵器という扱いになります。

戦略核兵器は戦略目標を達成するために使用され、
戦場ではなく戦場より後方の地域で使われることが多いです

例えば、都市部や発電所、その他のインフラへの攻撃に用いて相手の国力と生産力を削る事で継戦能力を低下させたり
敵が反撃する前に敵の核戦力を撃破し無力化させるために使われます
潜水艦発射弾道ミサイル「トライデント」



500km以上の射程を持つものが戦略核兵器とされるそうですが、
威力や運用法によってはそうでない事も有ります。
分類が曖昧な核兵器に関しては実際の使い方次第ですね

もう一つは「戦術核兵器」
中短距離の弾道ミサイルや米軍が現在も配備している核爆弾(B61 B83など)がこれに当たります
現在も配備されている米軍のB61核爆弾

こちらは戦術目標を達成するために
戦場で敵の兵士等の戦力、前線指揮系統を撃破、混乱させるために使われます

味方まで巻き込まないように戦略核兵器よりも低威力で、B83などは搭載前に威力を調整できます

戦略核兵器は弾道ミサイルに留まらず、
巡航ミサイルや航空機爆弾、核魚雷、核砲弾、核地雷など様々なタイプが有ります

核兵器はその重さに比べて高威力で、
ソ連が物量作戦で押してきた際に待ちぶせ迎撃を行ったり
逆に侵攻前に砲撃を行うことで敵戦力を殲滅して進軍するという事を想定して
戦術核兵器は開発、配備されていきました


米軍のM65カノン砲によるW9核砲弾の射撃実験
1953年5月25日 ネヴァダ砂漠にて
この頃は残留放射線や放射線の人体に対する影響がまだあまり分かっておらず、
この砲撃の後に砲撃した地点に歩兵を徒歩で前進させるつもりであった。

元の記録映像にはこのカノン砲発射するために時限装置を仕掛けた後、近くの塹壕に入るところまで記録されている。
爆風さえ凌げればそのまま爆心地まで徒歩で移動するつもりだったのだろう

因みにこのW9核砲弾は広島に落とされた「リトルボーイ」とほぼ同威力だそうです


さて、今回の本題はとある戦術核兵器の話です



時は1950年代。ソ連がいつ攻めてくるかも分からなかった西ドイツにおいて、
ソ連の物量作戦に対抗しうる戦術核兵器が計画されました。


それは、「核地雷」でした。

地雷と言ってもセンサーなどで起爆するのではなく、
あらかじめ埋めておいて遠隔操作か時限装置で起爆するものでした。

大量破壊と放射性降下物を発生させることでドイツにおけるソ連軍の侵攻速度を遅くしようと考えたのです。
「イギリスが」

つまり、イギリスはドイツに核兵器を埋めようとしたのです。
しかも、「西ドイツに秘密で」

当事国に秘密で核兵器を秘密裏に西ドイツに埋めてしまおうと考えたのです
当然、バレた時の外交的リスクは計り知れません。


さて、話はちょっと変わりまして、
電子機器のバッテリーというやつは低温では動作不良を起こすもので、

極端な例ではありますが
火星探査機「オポチュニティ」は2010年、冬季に入り太陽光発電パネルの発電量が低下する時期に太陽の方向(南半球だったのでこの場合は北)を向くことに失敗し、
-100度という極寒をヒーター無しで耐え切ることが出来ず通信が途絶しました。

冷たいドイツの大地に埋めるのですから何かしらの方法で暖める必要があります。
断熱材等で核地雷を包む案もあったのですが採用されませんでした


さて、では核地雷においてはどのような方法でこれを解決したのか
それは




「生きた鶏で保温する」





というものでした。

何も鶏だけをそのまま入れるのではありません。
時限起爆装置の設定時間は8日だったので、8日間生きてればいいのです
そのために餌と水も一緒に核地雷の中に入れられました

鶏の体温であればバッテリーを含む電子機器を維持するのに十分な温度が得られると考えられたのです

鶏が何らかの原因(高確率で放射線障害ですが)で死んでしまった場合は核地雷を掘り返して鶏を交換すれば良いし、
8日間を過ぎた鶏はそのまま解体して美味しく食べてしまえばいいのです(絶対に食べたくないですけど)

核地雷は8日間掘り返されなければ自爆するように設定され、
英軍司令部までの有線ケーブルが引かれ、いつでも起爆できるようになっていました。
(因みに、所定の操作をせずにケーブルを切断したら10秒以内に鶏もろとも起爆するそうです)

この核地雷には「ブルーピーコック」という名前が付けられました。
青孔雀という意味があるそうです。鶏が関係してないとは思えませんが。

この核地雷の威力は約10kt。広島に落とされた「リトルボーイ」が15ktですから、結構な威力があります
ブルーピーコックのプロトタイプ。
この中に鶏を入れるつもりだったのだろうか



結局、鶏を入れることで決定し、ドイツに埋めるため10個の核地雷が発注されました…
が、


同盟国、というか他国の領土に無断で核兵器を埋めるという外交的リスクがあまりにも大きすぎるため量産と配備は中止されました。
どうも爆弾自体に技術的問題があったわけではないようです

その後試作されたブルーピーコックは核爆弾を抜いて保管されたそうな


この計画に関する書類は(西ドイツに知られたら絶対に激怒するので)長い間機密指定され、
国立公文書館で保管されていたのですが、


機密指定が解除されたため2004年4月1日に公開されたのです。

結局、ブルーピーコックは公文書館によるジョークだったのでした。

ええ。10年前の嘘です




















と思いたいのですが英国面はそんなに甘くない。
嘘であるのは間違いないですが、
嘘なのは「公文書館によるジョーク」という部分であって、

それ以外は全て事実です






実際に2004年4月1日にブルーピーコックに関する文書が公開された当時は

インターネット上などでは日付の事もあって「エイプリルフールのジョークだろう」
と思われていたようです

そのため、公文書館はエイプリルフールの冗談ではないという表明を出したそうな
その時のBBCの記事から引用すると

"It does seem like an April Fool but it most certainly is not. The Civil Service does not do jokes."



だそうです。いくら公共放送で
「車を頻繁に破壊したり」「コメディ番組で民放のオープニングパクったり」「首相がそのコメディ番組のネタを公式な場で使ったり」する国でも

公文書館は立場的にジョークなんて言っちゃいけない立場ですしね




(実はこのネタ、出せるまで待ってた)

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